なぜそのインフルエンサーはソーシャルメディアを辞めたのか

エセナ・オニールがSNSアカウントを削除した理由を考えてみる

ちょっと前、2015年11月にこんな記事が流れていました。

人気インスタグラマーが突然の引退宣言! ソーシャルメディアの落とし穴とは?

オーストラリアのエセナ・オニールさんという18歳の女の子。インスタグラムのフォロワーが50万人、YouTubeとタンブラーが20万人、スナップチャットで6万人のつながりを持つという、超インフルエンサーです。
インフルエンサー オーストラリア SNS削除

企業とのタイアップ投稿なども行い、ソーシャルメディアで生活できていたオニールさんが

「“ソーシャルメディア”は不自然な写真と、編集されたビデオクリップを互いにランク付けしあっているにすぎないわ。それは誰かに認められたい、っていう欲求に基づいたシステムなの。“イイね!”やページビュー、フォロワーの数とかでね。それって完全にエゴ。四六時中他人を眺めていて、一体いつ私たちは自分自身を理解して、自分の本当の目的や才能を見極めることができるというの?」

という言葉を最後に、すべてのソーシャルメディアアカウントを削除したのです。

結構ネット上でも話題になったので、覚えている方も多いのではないでしょうか。この一件、「やっぱソーシャルはほどほどにしないとねー」ぐらいに捉えていると本質は見えません。

10代にしてソーシャメディアで多大な影響力を持ち、それが収入を生むという、だれもが羨む状況であった彼女がなぜ「ソーシャルメディアはミジメだから辞める」という選択をしたのでしょうか。

 

ソーシャルメディア 2つの用途

まずは上記のような特定の案件について考えるのではなく、ソーシャルメディアの用途について一般論として考えてみましょう。

ソーシャルメディアをどう利用するのかは、もうひとそれぞれです。ですがあえて用途を大きく2つに分けるとすると、

1.知人や好みのタレントなどの投稿を楽しみ交流する。

2.自分のビジネスに有効に作用するように使う。ソーシャルメディアからキャッシュを生む。

この2通りです。

「1」の場合はもう何をしても良いです。バイト先で非常識な行動をとって写真を撮ろうが、オッサンのくせに毎日自撮り画像をUPしようが、毎朝ぽえむを書き記そうが、やりたいことをやればいいです。気持ち悪がられようが、炎上とかして住所をつきとめられようが、他の人に迷惑かからなければ全然OKです。

「2」の場合はある程度各SNSの空気というか、ルールというか、そういうものを知って運用する必要があります。イケてる写真がズラっと並ぶインスタのフィードに、バリバリの出会い系アプリの広告とか流すとユーザーはドン引きします。Facebookページに1日10も20も投稿すると、どんどんファンが減ります。効果検証も必要です。

当然、「自分の売ってる新築マンションのトイレ、こっそり使ったったわー!」とか、モラルに反することは絶対に書いたらだめです。そもそもトイレ使うなってハナシですが。

広告・IT業界にいると見えなくなりがちなのですが、一般のユーザーはほとんどが「1」です。純粋に、自分が楽しむためにソーシャルメディアを使ってます。趣味でやってるアカウントからお金を生もうなどとは考えていません。

 

影響力を持つまでの過程

ソーシャルメディアの運用用途が上記「2」の「キャッシュを生む」に至るには2つの経路があります。

A.そのSNSアカウントを解説した当初からキャッシュを生むことを目的にしていたパターン

B.最初はプライベートで楽しくSNSを運用していたが、いつのまにか人気アカウントとなりキャッシュを生むようになったパターン

です。エセナ・オニールさんの場合、モデルさんなら名前があるはずだとWikipediaで調べてみたのですがヒットしませんでした。おそらく最初は著名なモデルさんではなかったのでしょう。

ですが他の情報を調べていると、ソーシャルメディアで影響力を持つことを目指していてたともあります。アカウントを開設し、どんな投稿をすれば反応が取れるのか、何をすればフォロワーが増えるのかを検証しながらコツコツとアカウントを育て、企業からの投稿依頼がもらえるまでになったのでしょう。

オニールさんは純粋にプライベートでの交流を目的としていたわけではありませんが、最初は無名だったことを考慮すると上記「B」に近い状態ですね。

 

プライベートアカウントと商用アカウントのギャップ

自分の運営しているソーシャルメディアアカウントが、商用でないアカウントから商用アカウントに役割が変わるとき、ほとんどのアカウント運営者はギャップを感じるはずです。

今までは自分がやりたいようになんでも好きに投稿できたものが、依頼者の要望により表現が自由にできないケースなどが発生します。また、依頼者との関わりの中でそれまでは大好きだった商品が「スポンサーの同業他社製品だから」ということで投稿できなくなったりもします。

依頼する企業の立場から見ると、対価を支払い自社の情報を掲載してもらうということは広告そのものです。投稿する内容にスポンサー企業から一定の意思が介入してくることは当然です。

 

また、無名のユーザーは認知度が上がるにつれて一定数の批判や誹謗中傷が発生します。程度によっては炎上という事態に至ることもあります。特に初めて自分が批判の対象となったことを知ったとき、もうかなりヘコみます。投稿するのが怖くなったりします。

これ、ほんとは「批判されてナンボ」です。「◯◯さんすごい!」「いつも役に立つ情報をありがとうございます!」などの好意的な反応しか無い場合は、一部の濃いファンにしか情報が到達していません。

「そんなこと誰でも知ってるよ」「いつもUPしてるドヤ顔ウザいんですけど」など、悪い反応が見えるようになったときこそ喜ぶべきです。自分の発信した情報が、ファンだけでなくその周辺の本来自分に興味が無い人にまで届いているという証拠です。影響力が大きくなればなるほど批判するユーザーの数も大きくなるということです。

 

当初は無名だった人が影響力を持ってSNSでキャッシュを生むようになったとき、この段階を乗り越えられるかどうかがひとつのポイントです。

キャッシュを生むということは、シゴトです。どんなに好きなものでもシゴトになると他人が関わってきます。他人が関わってくると自分の思いどおりにできないこともあります。ほんとうにやりたいようにやりたいことをしたいなら、それでもキャッシュを生めるよう、さらに強力な影響力を持つ必要があります。

多くの人に自分が知られると、必ず反対意見が出てきます。反対意見ならまだいいです。理由なく「なんかあんたキライ」という人もでてきます。そして自分を攻撃してきます。

 

言いたいのは

ソーシャルメディアを使って自分のビジネスに役立てたいとか、ソーシャルメディアそのもので自分を売り込みたいなら、シゴトとしてソーシャルメディアを使うことに腹をくくりなさいということです。

自分の思うことを自由に表現したい、自分のことを良く思わない人からの攻撃を受けたくない。でもキャッシュはほしい。これはムリです。

キャッシュがほしいなら、ある程度の表現の不自由さを受け入れ、批判を交わすメンタルを持っておくことです。奔放に表現し誰からも文句を言われたくないのなら、企業から「あなたのアカウントでウチの商品を紹介してくれませんか?」と言われても、キッパリと断りましょう。

 

そういう意味では、エセナ・オニールさんのジャッジは正解かもしれませんね。「カネをもらうために思ってもいないことを発信するのはもうたくさん」ってことですから。

オニールさんが「完全にエゴ」と言い切っている、いいねの数とかフォロワーの数とかPV数って、ビジネスにつなげるには必要なもの(もちろんそれだけでは無いのですがベースとして)です。彼女はそこまで腹をくくれてなかった。それだけのことです。

 

もし自分のやってるソーシャルメディアのアカウントが突然影響力を持ったら?そして企業からオファーがあったら?ビジネスアカウントとして振り切るだけの割り切りができるのかどうかを基準に、受けるか受けないかを決めればいいですよ。どっちつかずがいちばん不幸です。オファーする企業にとっても、自分にとっても。

 

田村でした。

プロフィール・実績・掲載メディア(雑誌・新聞)